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横浜地方裁判所 昭和57年(わ)2218号 判決

主文

被告人を懲役四月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、建築、内装の設計、施行、遊技機械の販売、リース、不動産の売買、飲食店の経営等を目的とする株式会社S商事の代表取締役として同社の経営にあたっている者であるところ、飲食店「喫茶K」を経営するAが、常習として、昭和五七年一〇月二六日、横浜市中区《番地省略》所在の右「喫茶K」において、賭客であるB及びCを相手に、同店内に設置した特殊遊技機ゴールデンポーカーを使用して、右Bらをして現金を賭けさせ、盤上に表示される五枚のトランプカードの種類の組合せいかんにより勝負を争う方法による賭博をして金銭の得喪を争った際、その情を知りながら、(一)同年四月上旬、同所において、右Aに対し、特殊遊技機の購入資金として二四〇万円を貸し付けたほか、同人に対し同年七月下旬に三〇〇万円を、同年一〇月一日ころに一五〇万円をいずれも特殊遊技機の購入資金として貸し付けるとともに、(二)同年四月八日ころ、右Aに対し、金銭識別機付きの特殊遊技機ゴールデンポーカー五台を販売してこれを「喫茶K」に搬入したほか、同人に対し、同年七月二六日ころに同様のゴールデンポーカー五台及びゴールデンナイン一台を、同年一〇月一日ころに同様のゴールデンポーカー三台をそれぞれ販売して、これを同人と一緒に同店に搬入し、もつて、右Aの前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

1  構成要件と法定刑を示す規定

刑法六二条一項、一八六条一項

2  法律上の減軽

刑法六三条、六八条三号

3  刑の執行猶予   刑法二五条一項

(弁護人の主張について)

弁護人は、被告人に常習賭博幇助の刑責はない旨主張する。

そこで、検討するに、前掲各証拠によれば、判示事実のほか、次の各事実が認められる。すなわち、

(1)  被告人は、「昭和五〇年九月四日、横浜市中区にあるスナック『M』の事実上の経営者として、特殊遊技機貸付業者のDと共謀の上、店内に設置した特殊遊技機『ビンゴマシン』及び『スロットマシン』を使用し、賭客三名を相手に現金の得喪を争って、俗に『ビンゴ』及び『スロットマシン』と称する各賭博を行った」旨の事実につき、同年一一月一一日横浜簡易裁判所で賭博罪により罰金七万円に処せられ、更に、「昭和五一年七月九日、横浜市中区内にある飲食店『P』の経営者として、特殊遊技機貸付業者のEと共謀の上、店内に設置した『ビンゴマシン』を使用し、賭客を相手に現金の得喪を争って、俗に『ビンゴ』と称する賭博を行った」旨の事実につき、同年八月六日横浜簡易裁判所で賭博罪により罰金二〇万円に処せられたこと、

(2)  その後、被告人は特殊遊技機を設置した飲食店の経営から手を引いて、娯楽遊技機の販売、リース業に転身することとし、昭和五二年ころから個人としてS商事を経営し、同五六年七月には判示の株式会社S商事を設立して、建築、内装関係の仕事のほかインベーダー、パックマンなどの娯楽遊技機のリース等を行っていたが、娯楽機械のブームが下火となったことから生活設計のため判示場所にあった「喫茶T」を経営するようになり、同月下旬ころ、クラブ「N」の店長をしていたAを引き抜いて(同人に一五〇万を貸与)右「喫茶T」の店長とした上、同店内に特殊遊技機ゴールデンポーカー二台等を設置し、これを使用した営業を開始したこと。

(3)  しかし、右「喫茶T」(のちに「喫茶K」と改称)にはあまり賭客がなく売上げも増えなかったことから、被告人は翌五七年三月には同店の経営をやめたいと考えるようになり、丁度、そのころ、Aから自分に貸与してもらいたい旨の申入れを受けるや、これに応じ、一旦前記ゴールデンポーカー二台等を同店から引き上げた上、同年四月一日以降、同人に対して同店を一か月四〇万円の賃料で転貸したこと、

(4)  被告人は、同月五日ころ、Aから同店内にゴールデンポーカーなどの特殊遊技機を設置したいので、その購入につき協力してもらいたい旨の依頼を受け、当初は消極的な意見を述べたものの、同人から、このままでは被告人からの借金(当時の残額は九八万円位)も返せない状態なので、特殊遊技機を入れたい旨言われて、すぐこれに賛成し、その直後ころから、同人の依頼に応じて、判示のとおり、前後三回に亘り、同人に対して、特殊遊技機購入の資金(合計六九〇万円)を貸し付けるとともに、娯楽遊技機等の販売業者である「H」ことFから購入した金銭識別機(賭博にあたり、賭客の千円紙幣の直接使用を可能とするもの)付きの判示特殊遊技機(合計一四台)を販売し、かつ、これを同店内に搬入したこと、

(5)  Aは被告人との間で、右の借受金を定額の分割によるのではなく、「喫茶K」の売上げの中から、これが多いときには多く、少ないときには少なく、逐次返済する旨約定し、現実にもこれに従って返済したこと(四月上旬の借受分は七月中旬までに完済し、七月下旬の分は九月一〇日ころまでに完済し、一〇月一日の分は同月中旬までに完済したこと)

(6)  被告人は、同年四月ころ、Aに対して、特殊遊技機を設置している他の飲食店等の営業に関し、賭客に対しては飲食料金を無料にしている店がある、トランプのカードにより特定の組合せが出来ると祝儀として現金や点数をサービスしている店がある、などの情報を提供したこと、

(7)  被告人は、営業として、昭和五七年二月二二日ころから同年一〇月二二日ころまでの間、前後一二回に亘り、前記「H」から合計六四台の特殊遊技機を購入し、うち一四台をAに販売したほか、残りの相当部分を横浜市内にあるスナック「R」の経営者Gやパブ「O」の経営者らに販売したこと、

以上(1)ないし(7)の事実が認められ、《証拠省略》中、Aに金員を貸し付けた際、これが特殊遊技機の購入資金として使用されることは知らなかった旨の部分等、これと相容れない部分は措信できない(検察官の指摘する事実のうち、被告人はAに「喫茶K」の店舗を転貸する当初から、同人が特殊遊技機を設置し、これを使用した営業を行うことを知悉していたとの点及び被告人は、「喫茶Q」の経営者として、同店に特殊遊技機を設置し、これを使用した営業を行っていたとの点は、これを認めるに足りない。)。

このような事実関係によれば、被告人は、営業の一環として、特殊遊技機を設置しこれを使用した賭博を行ったため、二回に亘って罰金刑の処罰を受けたにも拘らず、一旦かかる営業から離れたものの、再び「喫茶T」の経営者として、特殊遊技機を使用した営業を行い、同店(改称後「喫茶K」)の経営をAに引き継いだのちも、同人が賭客を相手とする賭博に使用するものであることを知りながら、同人に対して、多数台の特殊遊技機を販売したり、その購入資金を貸し付けて、右貸付金を同人の賭博等による利益の中から回収していたものであって、被告人の判示所為が、客観的にみてAの判示常習賭博の犯行(本件Aの所為が常習賭博罪に該当することは否定できないところである。最高裁判所第二小法廷昭和五四年一〇月二六日決定、刑集三三巻六号六六五頁参照。)に対する幇助に該当することは明らかである上、被告人は、特殊遊技機を使用した賭博に関する限り、これを営業的形態で反覆累行する性格的傾向ないし習癖を有するばかりでなく、かかる営業的形態の常習賭博の犯行に関心を持ち、自己の営業利益追及の観点からとはいえ、これを幇助するような行為を反覆累行する性格的傾向ないし習癖をも有するものと認められ、判示所為は被告人のこのような性格的傾向ないし習癖の発現と認めるのが相当であるから、被告人は常習賭博幇助の刑責を免れないものというべきである。

なお、《証拠省略》によると、被告人は、「H」の関係者からの説明によって特殊遊技機を販売すること自体は罪にならないと考えていた形跡があるし、Aに対する金員の貸付けも金融業者の営業としてなされる以上違法ではないと思っていた疑いがあるが、仮に、そうであったとしても、被告人の行為の違法性若しくはその責任を阻却させる事由とはなし難く、他に被告人の常習賭博幇助の刑責を否定すべき理由は見当らない。

したがって、弁護人の主張(被告人に対し罰金刑による処罰を求めるものであるが、畢竟、管轄違の判決を求める趣旨と解される。)には理由がなく、採るを得ない。

(裁判官 堀内信明)

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